町田kkkk

可能性の奴隷

離れ離れにならないように溶けてしまえばいい

玄関を出ると
寒さと日光と冬の乾燥した銀杏の匂いが身に染みた


お気に入りのピーコートの襟を正しながら
煙草を吸い、だらしなく歩く
目的地に行きたくなかった


太陽の位置は
俺みたいにだらしなく
鋭角に垂れ下がっていた
時々景色の輪郭が濃くて眩しい日があって
今日がそれだった
晴天だった
水分の抜けた草が揺れて音を出していた
そんな感じが好きだった
目的地を尻目に、ずっと歩いていたかった
冬の空気の匂いが好きだった
すれ違う女子高生が好きだった
女子高生も好きだった
松任谷由実の曲が好きだった


好きなものが多すぎて
全部に言い寄られたらどうしようか
アニメみたいに何も選ばずに
静観決め込もうか
魚喃キリコの漫画みたいに苦悩しようか


やりたくたくもない休日出勤で
職場につくとなんだかいざこざが起きていて
帰った方がいいよと言われたから
即帰る


帰り道の日差しの角度がもう夕陽で
匂いも夕焼けで
ああ僕が一番好きなのは夕暮れだった


不貞腐れて家に戻り
酒を飲みながら携帯ゲームで時間を潰す
毎週楽しみにしているごめんね青春を見る
ごめんね青春は面白いよ
今日は少し涙がでた
こんな青春があったかもなんて
どうでもいいけど
部屋に籠ってゲームしてる場合じゃない
酒に酔ってふらふらしてる場合じゃない


昔熊本であの娘を待っている間に観たタイガーアンドドラゴンを思い出す
人を待つことが好きだ
ああ、そうだった


僕は一番好きなのは夕暮れなんかじゃなく、
君を待っていることだった